自分の足で世界を歩く戦略技術者

Mori_2  スピークマン書店の新しいブログシリーズ「七大州見聞録~日本の中の世界」。
その第一回は、日本の外務省(JICA)からODA案件を受託し、中東やアフリカなどを自分の足で調査して歩き、規模の大きなプランを練る男をご紹介します。

 それは、この8月にスピークマン書店から「アラブの文化とビジネス 成功の極意」(J・アル・オマリ著)を翻訳者として出された森和義(もりかずよし)さんです。

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◆入社してすぐ外国へ
 私は1965年、早大の理工学部電気工学科を卒業し、神戸製鋼に入社しました。そして外国を廻りたいという希望が聞き入れられ、バングラデッシュ(当時の東パキスタン)の製鉄所の建設に携わりました。入社から10ヶ月で行き、5年間、赴任しましたね。

◆オイルショック
 帰ってきたのは、1971年。73年には、オイルショックがおこりました。
これは消費国から見れば「ショック」ですが、産油国から見ればチャンスです。
これを好機と、オイルマネーで潤った中東産油国が様々なものを「作りたい」と言ってきました。
このころ私が行ったのは、その後のアメリカの対テロ戦争で有名になった放送局アルジャジーラができるカタール(首都ドーハ)です。カタールでは王様が、石油や天然ガス以外の産業を起こすように命令し、それを受けて製鉄所を作りたい、ということでした。

◆鉄鉱石を天然ガスで還元
 産油国で製鉄所?なぜ…と思われるかもしれませんが、「直接還元鉄プラント」というのがあって、通常行われるような、溶鉱炉で鉄鉱石を高温で溶かして鉄を取り出す高炉ではなく、天然ガスを原料にした還元性ガスで鉄鉱石に含まれる酸素を還元する方法があるのです。つまり鉄鉱石を細かいペレット状にしてブレンドし、固体のままで酸素を取り去るのです。このようにして鉄鉱石を還元すると、残ったものの95%が鉄となります。これを電気炉で溶かせば鋼(はがね)になるのです。
 鉄鉱石は輸入するわけですが、カタールは天然ガス生産国でもあるので、年産40万トンの鋼を生産する製鉄所を作るということは、理にかなっているのです。

◆プラント事業のはじまり
 71年に帰ってきたあとも、南米や中東の仕事に従事しました。最後には現地で建設と操業指導をすることになったカタールの仕事を、終えて戻ってきたのは79年です。
ただ、カタール製鉄所では、カタール人はどの部門の仕事においても幹部になります。働き手はバングラデッシュ人。
またエンジニアも、カタール人も2、3人はいましたが、ほとんどはインドやエジプトから来ます。エジプトからは様々な先生も来ていました。アラブの中でもレベルが高いんですね。
こうしてイスラムやアラブの仕事に携わっていくわけですが、それはすべて会社に入ってからです。

◆プラントビジネスからの撤退
 80年代になると、カタール以外の国もプラントを作り出しました。その結果いろいろなプラントが作られ、忙しくなりました。大きなものは製鉄、セメント、そして肥料のプラントですね。プラントブームです。神戸製鋼も産油国などにいくつもプラントを作りました。
でも、プラントはビジネスとしては難しい仕事だったのです。
1985年にはプラザ合意があり、ものすごい円高になりました。その結果、それまでの7~8年のプラントビジネスは、大幅な赤字になりました。
原因はふたつあります。ひとつはドルで契約するので、この円高を受けて、受け取る円の代金が大幅にダウンしたこと。
 もうひとつは、コストオーバーランです。プラントビジネスは、労働者の質や建設コストの発生が見えにくく、それが最後に集計してみてはじめて分かる、というものです。IHIなどが最近大幅な赤字を出していますが、それと同じことを私たちもやっていたわけです。
結局、神戸製鋼はプラントビジネスから撤退しました。
しかし撤退しても、そこに代わりのビジネスチャンスが十分にあるわけではありませんでした。当時は円高不況の真っ只中でしたから。

◆ニュービジネス
 そこで、神戸製鋼も製鉄以外の「ニュービジネス」を模索することになりました。
情報通信(ソフト)とエレクトロニクス(ハード、とくに半導体)です。
たとえば富士通のように、ソフト+ハードを外売りしようとしました。しかし、バブルがはじけると、このビジネスは先が見えなくなりました。
そしてバブルからの回復が遅れる中、さらに大きなショックが起こります。95年の阪神淡路大震災です。この地震で本社も大きく被災し、神戸のエンジニアのビルもダウンしました。

 私自身は90年にニュービジネスから国内の都市ごみなどのプラント事業に戻っていましたが、1941年生まれなので96年に当時の定年年齢55歳を迎えました。そして三重県の伊勢にある神鋼電機に行くことになったのです。

しかし当時はバブル崩壊の真っ只中で、北海道拓殖銀行や山一證券の破綻もありました。この2500人の神鋼電機も90年代末に、大量の希望退職を募りました。
私は定年後の職場でもありましたから、このときやめることにしました。
そして今から8年前、経営コンサルタント会社、森テクノマネジメントを設立したのです。

◆森テクノマネジメント
 そのとき最初に出会ったのが斉藤公一氏。当時のマネジメント社の社長で、「コンサル会社を立ち上げるときには本があった方がいい」と助言してくれた人です。
そこで私も「いま、技術者が危ない」という本を出しました。広い読者層を狙った本ではありませんでしたが、これを読んだ日本技術者連盟(JEF)の井戸田理事に声をかけていただき、このJEFとも一緒に仕事をするようになりました。
井戸田氏には、「日本人の技術者の視野を広げる」、「美しい日本語より下手な英語」といった価値観で共感しました。
 そうした中、2004年に入り、イラク戦争(03年4月に終わる)の復興支援で、マスタープラン作りのためにヨルダンのアンマンに行ったり、その後アフリカのシエラレオネやパキスタンに行ったりと、海外を中心に仕事をこなしています。
 現在は、「アフリカ・中東技術者フォーラム」の立ち上げに協力しています。
TICAD(アフリカ開発会議)などで来る首脳の本音は日本の民間企業に来て欲しい、ということです。彼らは日本の技術が欲しいんですが、日本人はアフリカになかなか行けない、行きたがらない。そんな状況も鑑みて、このフォーラムをまさに立ち上げたところです。

◆「アラブの文化とビジネス成功の極意」について

アラブの文化とビジネス 成功の極意
解説書■アラブって何?―日本人にわかりにくいアラブの文化とビジネスを欧州のビジネススクールの教授がやさしく解説。
スピークマン書店 1冊から作るインターネット書店&出版社
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 私はこれまで、プラント関連のエンジニアとして技術やマネジメント力を磨きながら、アフリカや中東で仕事をしてきました。そんな中で、彼らに日本の技術を伝えていくことの重要性を強く感じています。彼らの願いは切実ですし、技術力を高めてその生活を豊かにしていくことこそ、人類の進歩でしょう。
 最近の資源価格の高騰で、資源を持つ国々との関係をしっかりしたものにし、日本のピンチをしのがなくてはならないという気持ちも日本側に生まれています。中東やアフリカの諸国と、お互いに本当に必要とし合う関係になった、はじめての時代かもしれません。
しかし、日本の技術や経験を伝えて実りあるものにするためには、技術者がそこに行ってリーダーとして働けばいいという単純なものではありません。
 まだ工業社会に達していない国では、技術だけでなく、工場や会社の運営ノウハウも伝えなくてはなりませんし、それ以前に、その現地の風土や習慣、言語について学び、腹を割って話し、伝える側の習慣と伝えられる側の習慣の違いなど様々なことをお互いに相談できる間柄にならないと、技術の移転はできないのです。
 そういう事実と資源価格高騰のタイミングで、私自身も読んでとても役立った「The Arab Way」(原著:J・アル・オマリ著、howtobooks社)すなわち「アラブの文化とビジネス 成功の極意」を、皆さんにお届けできるのは非常にうれしいことです。
 この本には、中東のアラブ諸国で実際に仕事をするときに必要なアラブとイスラムに関する実践的な知識がたくさん盛り込まれています。著者のオマリ氏は、中東地域に携わるビジネスパースンにアラブの文化を教えるエキスパートです。そして本書は、その学校で使われる実践的なテキストです。
 中東に行かれる方は、まずは本書を読んで、それから準備を始めていただければと思います。

◆将来
 将来は、国連の仕事をしてみたい、という気持ちがあります。あの緒方貞子さんが国連に入ったのは63歳です。それから77、8才まで国連の高等弁務官としてあのようなりっぱな仕事をされた。
私も、国連のようなところも活用しながら、途上国に対してモノ作りの仕組みやノウハウを伝えていければと思っています。途上国には、モノ作りの技術だけでなく、生産管理技術、財務分析などの運営ノウハウも伝えていかなくてはなりません。
 そのためには、JICAもいいですが、国連という大きな枠組みにも魅力を感じています。

<このブログは、10万円代の自費出版本、3万円代での絶版本の復刊、在庫本のリンク、一般商品の「販売」を行うハイブリッド書店スピークマンがおおくりしています>

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